ロストワックスの熱処理
みなさんこんにちは。ロストワックス鋳造コラムです。
今日は「ロストワックスの熱処理」についてお話ししようと思います。
”鋳造品に熱処理なんているの?”
”機械加工後の熱処理のこと?”
なんて思われた方も多いかと思います。
いえいえ、鋳造品でもいろいろな理由で熱処理をほどこす事が
安定した良質なロストワックス鋳造品を提供する事ができるんです。
せっかくなので、「熱処理」についておさらいしておきましょう。
熱処理の基礎知識
熱処理では、「焼き入れ」「焼きもどし」は有名ですよね。
この2つの熱処理はセットで行うのが基本になります。
それぞれ何のために行うのか解説します。
焼き入れ
「焼き入れ」…SUS440C、S45C、SCM415、SCM440、SUJ2、SKH51、SKS3、SKD11、SKD61等
・目的:鋼材を硬くする。
・やり方:鋼材組織の構造が変化する変態点以上の温度まで上昇させた後、一定時間経過後、急激に冷却する。
・特徴:鋼材はマルテンサイト化して硬くなるものの、靭性がなくなり割れたり、欠けやすくなります。
焼きもどし
「焼きもどし」…SUS440C、S45C、SCM415、SCM440、SUJ2、SKH51、SKS3、SKD11、SKD61等
・目的:焼き入れによって脆くなった鋼材に、粘りや靭性をあたえる。
・やり方:焼き入れした鋼材を、焼き入れ温度よりも低い温度で再加熱し、空冷によって冷却する。
・特徴:焼きもどしには、「低温焼きもどし」と「高温焼きもどし」の2種類がある。
「低温焼きもどし」…靭性のあるマルテンサイトに変質し、応力の除去、
耐摩耗性向上、経年変化性の向上などの効果がある。
「高温焼きもどし」…強靭性を得られ、シャフトやギヤ等の機構部材、工具などに
適用されます。
焼きなまし
次に聞いたことはあると思いますが、「焼きなまし」の解説です。
JIS記号では「HA」と書かれています。
そうですね。スプリングなどの熱処理に書いていますね。
また、「焼鈍」(しょうどん)とも呼ばれます。
英語ではアニーリング(annealing)と呼ばれていて、
メカ屋さんがよく言う、あの”アニール”ですね。
焼きなましと言うと取っつき悪いですが、機械屋さんでは比較的日常で使っている
熱処理という事になります。
「焼きなまし」…あらゆる鋼材
・目的:鋼素材の機械加工をやりやすくするため、鋼材を柔らかくして組織を均一化する。
・やり方:焼きなましには主に5つの種類があり、それぞれで処理のしかたが変わります。それぞれの特徴とともにやり方も説明しますね。
完全焼きなまし
・特徴:鋼材も結晶粒で組性されているが、その大きさ結晶粒度と呼び、結晶粒度をそろえて組織を均質に整える。
・やり方:変態点以上に加熱したあと、ゆっくりと冷却して、鋼材が赤く無くなる臨界区域まで炉中で冷却する。
拡散焼きなまし
・特徴:鋼材元素のうち、一様に分布していない偏析元素を拡散して均質する。
・やり方:変態点を超えた温度で長時間加熱したあと、完全焼きなましを行います。
球場焼きなまし
・特徴:鋼材を熱処理して冷却すると、鋼材組織が層状、網状、針状になります。これら組性では脆いため、球状の鉄と炭素の化合物(セメンタイト)にし、加工性をよくする。
・やり方:加熱と冷却を繰り返す。
等温変態焼なまし
・特徴:フェライトとセメンタイトが層状に交互に並んだ組性をパーライトと呼ぶが、そのパーライトの厚みを制御し、切削性をよくする。
・やり方:加熱後の冷却速度を制御して切削性をよくする。
応力除去焼なまし
・特徴:残留応力を除去し、製品したあとの割れ等を防ぐ。
・やり方:再結晶温度以上で変態点以下の温度で加熱し、炉内または空冷で冷やします。
焼きならし
続いて、「焼きならし」です。
焼きなましと紛らわしいですが、目的が全然違うので覚えておきましょう。
英語ではノーマライジング(normalizing)ですね。
「焼きならし」…SUS430等
・目的:鋼材の結晶粒を微細化し、同時に外部からの圧力や熱が鋼の内部に残る残留応力を除去する。
・やり方:変態点よりも高い温度で再加熱し、空冷する。硬化を高めるため炭素を供給しながら行う場合もある。
・特徴:鋼材の結晶粒度が大きく(結晶粒が小さい)なり、靭性が強くなる。大型の構造鋼材など焼き入れ・焼きなましするには大きすぎて、均等な価熱ができないとき、割れなどが生じる場合があるため、焼きならしを行う。また、「完全焼きなまし」で柔らかくなり過ぎて加工困難な場合など、焼きならしして硬度調整を行うこともある。
ロストワックス鋳造品によくなされる熱処理
そこそこ聞いたことのある名前は上記4つですが、「ロストワックス鋳造」品ではステンレスが多いため他の熱処理を実施します。
固溶化処理
その代表格が「固溶化処理」で、主にオーステナイト系ステンレスに処方されます。
「固溶化処理」…SCS13(SUS304)、SCS14(SUS316)、SCS18(SUS310)等
・目的:鋳造で生じた内部応力を除去し、劣化した耐食性を復活させる鋼材組織改善のため。
・やり方:鋼材合金固有の温度まで加熱し、急速に冷却する。ステンレスの場合は1000~1100℃で、1.5分/1㎜<肉厚25mm≦1時間/25mmの割合で可熱時間を設定する。
・特徴:鋼材内にあるクロム炭化物や窒化物を高温によって、オーステナイトと互いに溶け合い(固溶化)急速に冷却することで完全なオーステナイト組織を作り出すことで、安定した組性となる。
析出硬化処理
もうひとつ、SUS630系に限定されますが、「析出硬化処理」と呼ばれる処理があります。
「析出硬化処理」…SCS24(SUS630)等
・目的:鋼材は炭化物と固溶化することで硬度を増すが、炭素を含まない柔らかいマルテンサイト系鋼材を硬化するため、金属間化合物の微細な析出物粒子を分散させて強度を高める。
・やり方:固溶化処理によって過飽和となった固溶体を分解するために加熱し、鋼材内に均一に分散させる。このとき、処理後の鋼材に求められる機械特性によって可熱冷却方法が異なる。この可熱冷却方法は、R処理、H処理、T処理があり、温度と可熱時間および冷却方法と時間が規定されている。
・特徴:ロストワックス鋳造では、SCS24のステンレスに適用するが、一般的にアルミニウム合金、
チタン合金、鉄合金にも適用できる手法である。
逆に、全ての鋼材で熱処理をするかと言えば層では無く、SCS17(SCH13)やSCS18(SCH22)などの
耐熱鋼材は熱処理をおこなわず製品化します。
まとめ
いかがでしたか?
熱処理は以上の6種類になりますが、材料や目的によって随分やり方も違いますし、
出来上がった素材は、同じ鋼材でも機械特性が異なることがおわかりいただけたでしょう。
日本の伝統工芸でもある”鍛冶屋”さんの金打ちの理由の一端が垣間見えたんではないでしょうか。
太陽パーツでは、お客様の求められる機械特性に合わせて、鋼材の選択から熱処理まで
最適な工法をご提案いたします。
熱処理についてわからないことがありましたら、一度「太陽パーツ」にご連絡ください。
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